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ずいぶんと昔のことだが。
早朝、労働センターでの日雇いにあぶれて、どこかの飯場に様子を見に行こうとしたことがあった。急きょ電話帳か何かで住所調べた程度だから場所がよく分からない。うろうろしているうちに日が高くなってきた。もう無理だ。

そのとき、人気の無い道端に大きい犬がつながれていたのを見かけた。いったいどうしたんだ君は? と近寄ってみたら、毛並みは悪いし両目とも白内障で失明した老犬だった。こんなに年とってから捨てられていたらしい。
何となく家庭ゴミ集積場のような、道からちょっとくぼんだスペースだった。

なでてあげたが、目が見えないので怖がっているようだった。、黙ってじっと立っている。もう日が高くなり暑くなってきていた。だから夏だったのだ。日陰もないこんな道端でかわいそうに、これからどんどん気温が上がるのに。この老犬はどうなるのだろうか。だけど僕には何もできないのだ。

アパートに帰る前に、たしか天下茶屋あたりの公園で休んでいた。マルチーズみたいな小型犬の散歩をしているおじさんがいて、おばさんと話をしていたのが聞こえた。その犬は年老いて目が見えないそうだ。ただ、明暗の区別はつくらしく、日陰は怖いのか入らないのだと言ってらした。
犬は地面のにおいをかぎながら、公園に並ぶ植木の根元を、日向と日陰の境目あたりをちょこちょこと歩いていた。盲目でもにおいを大事にする犬にはうれしい散歩なのだろう。大事にされていた。

同じ老犬でありながら、道端に捨てられた者がいればこうして大事に扱われている者もいる。たった1、2時間程度の時間に、こんなにも差がある運命を見て悲しい気分がしていた。